永遠にきみに
歩み寄ってきた夏木は、片方の肩に背負ったリュックを近くに放る。
塾のテキストやノートでずっしり重いリュックは、ドサッと音を立てて落ちた。
静かに、夏木が横を通り抜けていく。
その視線には、もう桜しか映っていないようだった。
ちょっとガッカリしたような…
ん?がっかり?
なんでがっかり?
…いやいやいや、あたししっかり!
「なぁ」
「えッ!?」
突然話しかけられ、驚いて声がひっくり返る。
夏木はそんなこと少しも気に留めていないようで、視線はまっすぐ、桜を見つめたままだ。
「キレーだな……」
しぼりだすような、夏木のその呟きに、あたしのバクバクが一気に静まっていく。
一心に桜を見上げる夏木の横に並んで、桜を眺めるフリをした。
「キレーでしょ」
「別にお前のじゃねーけどな」
「見つけたもん勝ちだって」
「ばーか」
くだらないやり取りに、どちらかともなく顔を見合わせて笑って、また桜を見上げた。
ばーかばーか。
きれいなのは、夏木だ。
その時のあたしには、夏木はキラキラ輝いている星空みたいに思えた。
汚れきったあたしなんかじゃ、どうやったって手の届かない綺麗なもの。
こんなに近くにいても、怖いほど遠い距離を感じたんだ。