主人とネコ(仮)
プロローグ
―もも。
脳裏に響く、優しい声。
柔らかく微笑む二人の姿が、目の前にいた。
―決して、血を流してはだめよ。……あなたは、特別だから。
そういった彼女は、どこか悲しげに見える。
―もも、どうか、悲しまないで。
頬に感じる彼女の手の温もりを、少女は感じる。
彼女の傍らにいた彼は、優しく、少女の頭を撫でた。
―お母さん
か細い声で、少女は彼女を呼ぶ。
切なげに、彼女は笑った。そして光の屑となり、次第に消えていく。
―お母さん! お父さん!
寄り添い合う二人。消えていく、その姿。
いくら手を伸ばしても、届かない。
私のせいだ。私が外にでなければ――……。
胸の内で呟いて、少女は立ち尽くす。
外に、出なければ……?
あの日、私は……外に出たの……?
刹那、闇が少女を呑み込んでいく。
薄れていく意識。
………あなたは。
闇の先で少女を見つめていたのは、冷たい眼差しをした、〝もうひとりの少女〟だった。
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