主人とネコ(仮)
ももは唇を噛み締め、俯く。
「此処から逃げ出そうなど、考えるだけ無駄なことだ」
腰を上げ、エルは扉のもとへと行く。
「魔力を失ったお前は、ただの人間なのだからな」
冷たい言葉を吐き捨て、扉は締められる。部屋の中は静けさに包み込まれた。
「……何よ、あいつ」
ぽつりと呟き、彼女はシーツを握り締める。
魔力を失ってしまえば、ただの人間。
ええ、そうよ。魔力がなければ何もできない。
魔物に襲われてしまえば、自分の身すら、守ることができない。
でも、だからってあんな……見下した言い方しなくていいじゃない!
( お前に拒否権はない )
絶対、逆らってやる。あんな奴の思い通りになんてなりたくない。
そして絶対、此処から、あの魔王から逃げるんだから。