主人とネコ(仮)
魔王の従者である彼、グレイがももの部屋に食事を持ってきたのは三十分程前。暖かそうなスープは既に冷えていた。
「食べてください、もも様。餓死されては困ります」
その口調だけで、彼が呆れているとわかる。
「でも」
「いやでも食べないと言うのなら、私が無理やりにでも口の中に入れて差し上げますが」
どちらにしますか? と言って、グレイは微笑む。その微笑みにももは思わず引き笑いする。
……目が笑ってないよ。
彼の言葉を冗談とは受け入れられないと思った彼女は、しぶしぶスープの入った器を手に取り、スプーンですくい、一口含む。
あ、冷めてても全然美味しい。
次からはちゃんと温かい内に食べようかな。
「食事の時は変な意地はらないでおこう……。折角作ってくれてるのに、申し訳ないよね」
「その通りです」
グレイの返答に、ももは驚いたように彼を見つめる。
「ど、どうして今私の思ったことを……」
「口から溢れていましたよ」
そう言うと、えっ? という顔をする。
「……気をつけなきゃ」
まったくです、と言うのにも疲れしまい、グレイは心の中で呟くだけだった。