主人とネコ(仮)
「入ってもよろしいでしょうか」
「あ、はいっ。どうぞ」
グレイ、じゃないよね……。誰?
そんなことを思いながら、開かられていく扉を凝視する。
「エル様の従者、ミルアと申しいます」
顎元まである金糸の髪。透き通るほど美しい、空色の瞳。
無表情ではあるが、そのクールさがさらに彼女の美しさを引き立てていた。
「あ、ももです」
思わず見惚れてしまったももだったが、慌てて軽く頭を下げる。
「天気が良いので、庭に出てみませんか?」
その言葉に、えっ、と声を出したまま、少女は固まる。
「で、出ていいんですか!?」
驚きの瞳を目の前の彼女に向ける。はい、と彼女は淡々と言った。
「エル様がそうしろとおっしゃいました。それと、敬語など私に対して使わなくて結構です」
やった! これで逃げれ……。
「ですが、もも様が逃亡してしまう恐れがありますので、私もご一緒させていただきます」
その言葉に、膨らんだ希望は一気に崩れていく。
がくりとももは俯いた。
やっぱりそう簡単には無理だよね……。
はあ、と嘆息する。
「着替えが終わり次第、ノックをしてください」
渡されたそれは豪華すぎず、質素すぎない、首元がレースとボタンで飾られているワンピース。
いつ置いたのか、足元にはブーツも置いてあった。
ミルアはそそくさと外に出て、扉を締める。
……固そうな人だなあ。
また一つ、ももはため息をこぼした。