主人とネコ(仮)
―1、
「……ん」
重い瞼を、ゆっくりと少女はあげる。
視界に映るのは、見慣れた天井。
ああ、と彼女は胸の内で呟く。
「夢、か……」
体を起こし、額に手を添える。
今と似たような夢を見たのは、これで何回目なのだろう。
変わった部分があるといえば、〝自分〟が目の前にいて、私を見つめていること。
とても冷たい、なんの想いも篭っていない、無常な瞳。
過去に見た同じ夢には、いなかったのに。
はあ、と小さく嘆息する。すぐ傍で一緒に眠っている綺麗な羽を持った小さな妖精は、寝息を立てながら、気持ち良さそうに眠っている。
ベッドの隣にある窓からは、月明かりが射し込んでいた。紺碧の空に浮かぶ、三日月を、少女は眺める。
窓を開けると、緩やかな風が桃色の髪を靡かす。
「…………」
いつもと変わらないそよ風を感じ、呆然と、彼女は外の景色を眺める。森の中に、彼女は住んでいた。辺りは木々に囲まれているが、庭にはたくさんの花が咲いている。その場所で、少女はずっと過ごしていた。
「……呼んでる」
栗色の瞳が、森の先を見つめている。
けれどその瞳は、虚ろである。何かに誘われるかのように、少女は小さな家の扉を開き、外へと一歩踏み出す。
ネグリジェのまま、そして裸足のまま、彼女は森の中へと入っていった。
そよ風が彼女の頬を撫でる。ただ呆然と、彼女は森の中を歩く。
そしてふと、彼女は立ち止まった。
「……あれ? 私、いつの間に……」
目の前に見えるものは、紺碧の空と妖しく光る月が水面に映っている、そう大きくはない湖。
辺りは静寂さに包まれていた。