主人とネコ(仮)
「……私は来たくて此処に来たんじゃない。はやく、帰りたい」
唇を噛み締める。
どうして、勘違いされなくちゃいけないの。
「そうですか」
それは淡々とした声だった。そしておもむろに歩き出す。
きっと彼女は、まだ私の言葉を信じていない。
「ねえ、私が此処から出るの、手伝ってほしいの。私がいても、邪魔なだけでしょう? 迷惑になるだけだから……」
「それはできません。あなたはもう、エル様の〝モノ〟ですから」
「私は誰かの所有物なんかじゃ――!」
「胸元にある紋章が、それを示す証です。その紋章がある限り、あなたに自由はありません」
「なっ……」
勝手に連れて来られて、勝手に変な紋章なんかつけさせられて、それに……自由まで、奪われるなんて――。
「っ……」
泣くな。泣くな、私。
泣いたら、勘違いされる。泣いて助けてもらおうなんて、無駄だと言われる。
「………」
ミルアはじっと少女を見つめる。
そしておもむろに、小瓶を取り出した。
「もも様」
その言葉に、彼女はゆっくりと顔をあげる。とても、悔しそうな、悲しそうな顔をして。
「先ほどは言いすぎました。自由がないというのは、あなた様が狙われる可能性が高くなったからです」
これを、とミルアは液体の入った小瓶を差し出す。