主人とネコ(仮)
「これは……?」
「香水です。少しでも、気分が和らげればと」
そっとももはそれを受け取る。そして数滴手に出し、手首に塗った。
ほんのりと、甘い香りがする。それは次第に心を落ち着かせていった。
「いい香り」
「気に入っていただけてよかったです」
表情は変えず、淡々と、ミルアは言う。
そんな彼女に、少女は小さく笑みを見せる。
「ありがとう」
「……いえ」
――ああ、何故だろうか。心の奥に、何かが引っ掛かる。
哀れな人間の少女。彼女は、私の言葉をすべて信じているのだろうか。
( 気分が和らげればと )
言葉の裏に隠された意味に、きっと彼女は気づいていない。
( 私は連れてこられたの! )
人間に会ったのも、表情豊かな者と関わることも、久しいから。
( ありがとう )
だから私の心は、少し驚いたのだろう。
悲哀なる人間の少女。鳥籠の中に閉じ込められた、小さな小鳥と同じ。
けれど彼女はただの〝人間〟ではない。人間にも、悪魔にもなりきれない、謎の少女。
だからこそ、エル様は興味をしめしたのだろうか。
冷酷であり、己にすら無関心である、あの方が。