主人とネコ(仮)
―3、
いつもと変わらない、壮大な青空。悠々と流れる白雲。
穏やかなそよ風が頬を撫で、髪を靡かせる。陽の光は柔らかく、気持ちいい。
「やっぱり、外はいいね」
たった数時間外の空気に触れていなかっただけなのに、まるで何十年間もの間、閉じ込められていたかのような感覚になる。
少女は紅茶の入ったカップを手に持ち、空を眺めていた。いくら眺めていようと、飽きることはないのだ。
ふと彼女は辺りを見渡す。
「お花、いっぱい咲いてるね。きれい」
二人は水路に囲まれたガボゼにいた。水路のすぐ傍には様々な種類の花が植えられており、種類が多いからといって花の色が窮屈そうに見えるわけではなく、それぞれの花の美しさを引き出せている。
「気に入っていただけましたか?」
「うん。これなら、リーラも喜ぶよ」
「リーラ、ですか?」
怪訝そうなその声に、ももは我に返る。
「あ、ううん。何でもない。気にしないで」
慌てる彼女に対し、ミルアは落ち着いた声で「そうですか」といった。
「もも様が気に入ったと知れば、きっとシズカさんは喜ぶでしょう」
「シズカ、さん?」
「庭師の方です。とても温厚で、良い方です」
そうなんだ、と言って、ももは紅茶を口にする。
「脱走する前に、会ってみたいなあ」
その言葉に、ミルアは苦笑いする。
きっと、胸の内で思っているつもりなのだろう。
けれど〝脱走〟は不可能に違いない。
〝魔王〟は、そんなにたやすい存在ではないのだから。