主人とネコ(仮)
城の中に入り、廊下の手前で少しとどまる。
ももが不思議そうに首を傾げた、その時、薄暗い廊下が明るくなった。
どうやら壁に掛けられていた灯りがついたようだ。けれど先の方ではまだ灯りがついておらず、暗闇だった。
ミルアが歩き出す。それにつられ、少女もまた前へと進みだした。
二人が歩くと、先ほどまでついていなかった所にも灯りが灯される。
しばらく歩くと、右と左への分かれ道が現れた。
「? どうして左の方にしか灯りがついていないの?」
ミルアの後を追いながら、ももは訊く。
「この灯りが、もも様のお部屋まで導くのです」
「……便利ね」
そう言って、ふと後ろを振り返る。
すると先ほどまで明るかった廊下は、薄暗くなっていた。
まるで闇が追いかけてきているかのような感覚に陥り、少女は身震いする。
「もも様。夕食を終えた後、エル様のお部屋に行ってください」
突然の言葉に、彼女はミルアの方に向き直り、驚きの顔をした。
「……どうして?」
「エル様がそうしろとおっしゃいました」
「い、いやだ!」
何でアイツのところなんかに!
「エル様のご命令です」
「そんなの知らない!」
絶対に行かない、などと言っている間に、ある部屋が見えてきた。灯りもそこで終わっている。
二人がその部屋の前まで行くと、自ずと扉は開かれた。
少女は中に入る。そんな後姿を見つめながら、彼女は口を開ける。
「……もも様、あなたはもうエル様の〝モノ〟です。ですから――」
「私に拒否権はない、って言いたいの?」
悔しげな声に、ミルアは口を噤む。
「失礼します」
静かに、彼女は扉を閉めた。