主人とネコ(仮)
窓の外を眺めると、先ほどまでの壮大な青空は分厚い雲に覆われ、完全に隠れていた。今にも雨が降りそうだ。
外と同じように、室内も薄暗い。
はあ、と彼女は嘆息する。出窓であるその窓のもとへ近寄り、突き出ている部分に腰を下ろす。足を軽く伸ばし、窓にこつんと頭を預けた。
「魔王のところに行け、か……」
そっと目を閉じる。
あいつの目的は、私の〝血〟。抱かれることはまずないに違いない。
けれど、あいつに血を飲まれてしまうのも嫌。
いっそのこと魔法を使って、ずたずたにしてやりたい。
胸の内でそう呟いて、ももはまたため息をつく。そっと瞼を上げ、よどんだ空を見つめた。
魔力を奪われた私は、ただの〝弱い人間〟。魔力があっても、あいつに勝つことなんてできない……。
( 魔力を失ったお前は、ただの人間なのだからな )
( もも様、あなたはもうエル様の〝モノ〟です )
「どうして私は……」
言いかけて、口を噤む。
「いっそのこと、心が壊れてしまえばいいのに」
そうすれば私は、悩むことも悲しむこともなくなる。
アイツ(魔王)にとって、都合のいい存在となるのに。
彼女の瞳が、どこか虚ろとなる。
―― もも様、簡単にそのようなことを言わないでください ――
悲しそうな声に、少女は我に返った。そっと床に降り、ベッドの枕元においてあるその古びた本を手にとる。
―― 心は、とても大切なものです ――
声だけで、悲しんでいるとわかる。ごめんね、とももは小さく呟いた。