主人とネコ(仮)
かつて妖精であったその本を胸元に抱き寄せ、少女はベッドに体を倒す。
( あなたの血は、特別だから―― )
悲しげな彼女の声。幼い頃のももに、何度も彼女は「ごめんね」と呟いた。
「……私の血って、そんなに特別なものなの?」
―― ええ。極めて稀な血です。過去においてもも様と同じようにそのような血を持った方はいません ――
「どうして私だけ?」
―― ……わかりません。これは私の憶測ですが、もも様がその血を持って生まれてきたことは、偶然ではありません ――
「偶然では、ない?」
―― ええ。きっと、誰かがその血を存在させるために、何かしたはずです ――
憶測ですが、と続けて言う。
「………」
もしその言葉が本当だったら、
( ごめんね、もも )
口癖だったあの言葉の意味も、変わるのだろうか。
「……人間のものでも悪魔のものでもない血だから、私は……どちらにもなりきれないの?」
―― ええ。おそらく ――
静かなその声に、ももは唇を噛み締めた。
悪魔にしては魔力が少なすぎる。それに、魔力を使えば使うほど、体に影響がでる。
悪魔だったら、魔力が少なくなっても、疲れていくだけなのに。なのに、私は違う。
体が、魔力についていけない。たいした魔力でもないのに。
「体は人間、力は悪魔。……中途半端な存在ね」
だからこそ、見下される。力を奪われた私は、〝ただの人間〟だと。
力を持っていも、見下される。〝悪魔にも人間にもなりきれない〟と。