主人とネコ(仮)
青白い月明かりに照られる湖。優しい風が、少女を通り過ぎた。
この場所は、好き。心を癒してくれる。
でもどうして、私は此処にいるの?
怪訝そうに眉を寄せた、刹那。
「人間とは、珍しい」
突然の声に、少女は驚いて振り向く。
「だ、れ……?」
声のした方を見るが、そこには誰もいない。緩やかな風が、彼女の頬を撫でた。
悪魔、とはまた別の匂い……。
危険を察知し、無意識に一歩さがる。
刹那、木々の中から、何かが少女に襲いかかった。
「っ……!」
咄嗟に彼女はソレから身を避ける。
月明かりに照らされてソレは、鋭い爪を持った魔物だった。
間一髪のところで避けることができた、と安堵した少女だったが、頬に感じる痛み、そして何か生暖かいものが流れ落ちていくのを感じ、彼女は眉を寄せた。
「最悪……」
風とともに運ばれる血の匂い。
「この血は……」
先ほどと同じ声がする。けれどそれはとても小さな声で、少女の耳には入らなかった。
少女の頬に傷をいれた魔物は 再び彼女を襲おうと体制を立て直す。
そして草木が激しく揺れると共に、さらに数十体の魔物が現れた。
「少し出ただけなのに・・・」
はあ、と彼女はため息をつく。けれどすぐに、集中し始めた。
( いいか、もも。 自分の身は 自分で守るんだ )
少女はぶつぶつと何かの呪文をとなえ始める。光の粒が、どこからともなく現れた。
「私を襲おうとした仕返し」
魔物にそう言った、その刹那。少女と数十体の魔物、そして〝誰か〟は、ドーム状の白い光に包まれた。