主人とネコ(仮)
「この目がか?」
男は何も表情を変えず、冷たい瞳のまま口を開けた。
「お前はこの目を綺麗と思うのか。珍しい。他の者はこの目を恐れるのにな」
――恐れる?
綺麗な瞳なのに、どうして恐れるの?
「それよりお前、名は何と言う?」
「………」
先に自分から名乗りなさいよ。
そう言いたいが、この男は只者ではないだろう。
そう思い、彼女は言いたい気持ちを抑える。
けれど彼女は自分から名前を教えるのが嫌なのか、
「あなた、誰?」
彼の言葉を無視した。
それが気に障ったのか、男は少し眉間にしわを寄せる。
しかし少女も自分から教えまいと、そして彼に対する警戒心から無意識に睨みつける。
「俺はエル。この世界を治める魔王だ」
どくん、と少女の心臓が跳ねた。
この人が、魔王? でも、どうして……。
「……どうして、あたしを此処に連れてきたの?」
怪訝な顔をする彼女を見て、にやりと彼――魔王は笑う。
「当然、その血を手に入れるためにだ」
「―――っ……」
( もも、絶対に血を流してはダメよ )
優しい声が、脳裏に響く。
( あなたの血は、特別だから。もし、それを知られてしまえば―― )
彼女は何度も言っていた。悲しそうな、申し訳なさそうな顔をしながら。
( みんな、その血を飲もうと、あなたを狙うから )
ああ、あの時、魔物の攻撃を避けきれなかったせいだ。
そのせいで、私はこの男に……冷酷だと恐れられる魔王に、捕まってしまった。