主人とネコ(仮)
「さて、いい加減言ってもらおうか」
「っ……!?」
気付くと魔王はすぐ目の前におり、彼女は顎をくいっと持ち上げられる。
「――お前の名は?」
とても冷たいその眼差しに、少女は息を詰まらせる。
魔王は恐ろしい、って聞いていたけど……。
本当に、これはやばいかもしれない。
「答えろ」
「っ……」
魔王である彼――エルの声は低い。聞いただけで、不機嫌だということがわかる。
彼が顎を持ち上げる指に力を込めたせいで、痛みが走った。
「……っ、もも」
「そうか」
少女の名など対して興味がないのかのように呟いた、刹那。
「んっ……!?」
唇に触れる、柔らかいもの。目の前にある、整った魔王の顔。
なっ、なっ……!!
あまりにも突然なその口付けに、ももは目を見開ける。頭の中は混乱していた。
当然彼女は嫌がり抵抗するが、エルは後頭部に手を抑え、抗うことを出来なくする。
彼は無理やりももの口を開け、舌を絡ませようとする。
イヤ!
その心の叫びも虚しく、彼女は彼から逃れることができなかった。
それでもどうにかして逃れようと、咄嗟にエルの唇を噛む。切れたためか、鉄の味がした。