主人とネコ(仮)
彼の胸を力一杯押すと、先ほどとは違い、いとも簡単に彼は離れた。
「飲んだな」
にやりとエルは口端をあげる。
何かを企んでいるその瞳を、ももは睨みつける。
「一体な――……っ!」
刹那、燃えてしまうかのような鋭い痛みが、左胸上辺りを襲った。
言いかけた口を噤み、彼女は胸元を握り締める。
「何を……したのよ!」
痛みに耐えようと、必死に唇を噛み締める。けれど苦しく、彼女は口を開ける。肩で息をするほど、呼吸が乱れていた。
痛みを堪えながらエルを睨みつけるが、あまりの激痛に意識が朦朧となっていく。
そしてそのままももは意識を手放し、ベッドの上に倒れ込んだ。
「少しキツすぎたか」
そう言って、苦しむ彼女の姿を見つめた。
そして胸元を掴み、ネグリジェを右下に引っ張る。
左胸上には一見飛龍のようにも見える漆黒の紋章が浮かび上がっていた。
それを見て、彼はにやりとまた笑う。
ああ、これでお前は――。
「もう俺から逃れることはできない」