『naturally』
「主語がないんだよ。何を知りたいんだ」
「……例えば、女の親兵がいるとか」
「あり得ないな」
キッパリと言い捨てたセルシュに目を丸くしたリューシュに、
「そうだなぁ。常に新鮮さを求め続けるうちと違ってクロチェ国は長い歴史故に長く続いた伝統が崩れるのを嫌がる閉鎖的な国だから」
ナッシュが付け加えた補足に、リューシュは珍しく難しい顔で腕組みをしていた。
「女は女らしく淑やかに。だから女が剣術や武術、親兵なんて男の真似事をさせるのはクロチェではあり得ない」
二人の兄たちから聞かされたクロチェ国の国柄に、リューシュはますます眉を顰めた。
どうやら合点が行かないことがあるらしい。
リューシュの話で何かを思い出したらしく、ポンと手を叩いたナッシュが再び口を開いた。
「そういえば、一人だけ親兵連れてきた国があったなぁ。セルシュ」
「あぁ。姫のお気に入りらしい」
「その親兵って確か……女性だったよな。どこの国だっけ?」
「……クロチェ国だ」
クロチェ国という国。
歴史と伝統を重んじる国で何故女であるシェナが姫の親兵を勤めているのか。
リューシュの中の疑問は晴れることなく、深まっていくばかりだった。