『naturally』
話は十数年前まで遡る。
王家直属の剣士だった父を持つ貴族の家。
これがシェナの生まれた家だった。
シェナには母親似の美しく頭の良い二人の姉の他に、五つ下の弟がいた。
跡取りとして一家待望の男の子だったにも関わらず、その弟は一歳の誕生日を待たずして亡くなってしまったのだった。
哀しみにくれる一家の中でも特に父の哀しみは一入だった。
父はいずれ彼に持たせる為に作った剣を片手に、彼の亡骸の前で一人泣き崩れていたのだ。
そんな父の姿を見てしまった日から、幼いシェナの中に一つの感情が芽生えたという……。
「その日からわたしが亡き弟に代わって父の剣術を受け継ごうと誓いました。その為に女であることを自分の中に封じたのです」
剣術を教えて欲しいというシェナの申し出に、クロチェの国柄のことを考え父は反対していた。
しかし、シェナの決意の堅さと、成し得なかった夢を叶えるべく、父はシェナを剣士として育て修行をつけることを決めたのだった。
家族も、父が元気になるのならと誰一人反対することはなかった。
こうしてシェナは現在に至るまでを亡き弟の代わりとして生きてきたのだ。