『naturally』
「決着をつけるのは構いませんが、女だからといって手加減は無用です」
「当然。その代わり、おまえも俺が王子だからって手、抜くなよ」
シェナを指差し、キッパリと言い切る負けず嫌いなリューシュにシェナがクスクスと笑いをこぼした。
「もちろんですっ」
今までで一番自然な笑顔をリューシュに向け、ハッキリとした声色でシェナが答えてみせる。
不意に見せられたシェナの和らいだ表情から、何故かリューシュはしばらく目が離せなくなっていた。
「リューシュ様! リューシュ様っ!! ナッシュ様がお呼びですっ!」
それを遮るように、またしても以前リューシュを探しに現れた侍女が城の方から二人の人影をめがけて駆け寄ってくる。
「タイムリミット、ですねっ。では、また明日に」
こう言って去り際に見せたシェナの顔は、いつも通りの無表情に戻っていた。
リューシュに形式的な一礼をし、シェナは侍女と入れ替わりに城の方へと行ってしまったのだった。
「リューシュ様。またこちらに……リューシュ様?」
すぐ傍までやって来た侍女にも振り返らず、リューシュは去っていくシェナの背中をぼんやりと見つめていた。