『naturally』

「兄貴っ」


リューシュがノックもせずに飛び込んだのは、次兄セルシュの部屋だった。


例によって、舞踏会の身支度を整えたセルシュとナッシュがテーブルを挟んで座っている。


「んっ? なんだよ。舞踏会に出る気にでもなったか? 」

「昨日の今日で早速か?」


いつものように冗談半分に笑う二人をよそに、ただ一人真顔のリューシュが口を開いた。


「面倒くさいから挨拶はしねぇ。あと、ダンスも踊んない。会場内一周したら帰る。それでもいんだな?」

「えっ!? 本気かっ?」

「……どういう風の吹き回しだ。気になる女でもいるのか?」

「おぅっ。じゃあ行ってくるから」


あれほど渋っていた舞踏会への参加を自ら申し出てきたリューシュに、面食らった兄たちは目を丸くして顔を見合わせている。



「お、おいっ! リューシュ待て! どこの姫だ? おいっ」

「あのリューシュが舞踏会なぁ……。言ってみるもんだな」

「言ってる場合か! 確認に行くぞ、セルシュ」


どういう風の吹き回しか……。


弟の心変わりに兄たちは浮き足立ち、まるで野次馬のような勢いで会場へと足を向けた。
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