『naturally』
「リューシュ様! リューシュ様! お待ちくださいっ!」
「なんだよ?」
着慣れないドレスで上手く動けないシェナの手を引き、進んでいくリューシュの背中にシェナが必死に呼びかける。
「この先は会場しかありませんっ」
「おぅっ」
「……行くのですかっ?」
「おぅっ」
「わたしも……?」
「当たり前だろっ! 俺だけが見たんじゃ勿体無いからな」
シェナの言葉に足を止めるでもなく、むしろ意気揚々とリューシュは答えていく。
それを聞いたシェナはますます慌てて、リューシュに引かれている手を振り切ろうと抵抗し始める。
そんなシェナをリューシュが振り返り、
「ほらっ」
「えっ?」
「手、出せよ」
「…………」
「良いからが出せって言ってんだろ」
「あっ……」
こう言って仕方なく差し出されたシェナの手に、リューシュがそっとドレスと同じ色をしたレースの手袋を着けていく。
「こうやってりゃあ見えないだろ? 傷」
「……あ、ありがとう」
剣士としての手の傷。
家族を崩壊へと導いたこの手を、リューシュはぎゅっと握り締める。
「大丈夫だ。……おまえは俺の見初めた人間だ。剣士としても女としても、な」
優しく笑い囁くリューシュに、シェナの胸は急激に高鳴っていった。