『naturally』
「リューシュ様! リューシュ様!」
「ちっ。タイムリミットか」
城の方から聞こえる若い女の声にリューシュの動きは止まり、素早く剣を鞘に収めた。
シェナはといえば完全に肩透かしをくらい、ただ呆然とリューシュの顔を見つめている。
「おまえ……シェナ! 暫くいるんだろ?」
「……舞踏会の間は」
「よしっ! 続きはまただ! じゃあな」
「…………」
こうして一方的に再戦の約束を取り付けたリューシュがぼんやりとしているシェナに笑顔を見せ、足早にこの場から去っていった。
「あぁ……また逃げられてしまったわ……」
それと入れ替わりに現れたのはさっきリューシュを呼んだマーセル城の侍女。
すんでのところで逃げられ、落胆の声を漏らす侍女が慌てて客人であるシェナに頭を下げ詫びた。
「はしたないところをお見せして申し訳ありません……」
「今の男性は?」
「リューシュ様ですか? リューシュ様はマーセル国の第三王子にあらせられます」
「っ! 王子だったのか……」
思わぬ事実に動揺し、ここに来て初めてシェナの表情が大きく変わった。