『naturally』

女性用のドレスには慣れたつもりだったが、今日だけはそれも吹き飛んでしまう程の緊張にシェナは包まれていた。


「いつまでそこにいるつもりだ? 王と王妃が待っておられるぞ」


こう言って二人の背後から声をかけるマーセル国親衛隊の制服。


「シェナの奴、緊張してるみたいで……」


「父様だって一ヶ月前は同じ気持ちだったはずだっ」


王と王妃が住む郊外の別宅を警護する親衛隊特別部隊隊長であり、リューシュの新しい剣の師匠。


つまりはシェナの実の父が、いつまでも扉の前に立ち尽くす二人に痺れを切らせて声をかけてきたのだった。


「だからと言って、お待たせしては失礼だろ」


二人が立ち往生している理由。
それは、初めてお目にかかる王と王妃、それ以前にリューシュの両親である二人への張り裂けそうなくらいのシェナの緊張だった。



そんなシェナを困ったように見つめる父の顔は、ちょうど一ヶ月前のことを思い出し、にわかに笑みを浮かべていた。
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