『naturally』
クロチェを国外追放されてからの父は、小さな剣術道場を開き細々と生活していた。
そんな自分の元に、精悍な顔付きをした青年が現れたのはちょうど一ヶ月前のこと。
一目見て貴族だとわかる出で立ちの彼に一礼し、訝しんで立ち尽くしていた自分に、
「お初にお目にかかります。俺はマーセル国第三王子のリューシュと申します」
第三王子と名乗る青年は、丁寧にお辞儀をしてみせた。
驚きで目を見開き、ただ呆然とする自分に、
「今日は貴方にお願いが二つあって参上しました」
「願い?」
真っ直ぐ見つめるリューシュは、大きく頷いて見せた。
そのまますっと深く息を吸い込み、
「シェナを俺にくださいっ」
半ば叫ぶように発し、勢い良く頭を下げた。
「お、王子! お止めくださいっ。王家の方が頭を下げるなど」
「いや。大事な娘を貰いたいと言うのに王家も何も関係ないっ」
キッパリと言い切る眼差しは真っ直ぐで気高い。
そこから目を逸らし、
「……どこでシェナのことを存じられたのかは知りませが、あれには罪があります。……この私と同じ罪が」
父は握り締めた拳を震わせた。