『naturally』
「熱でもあるのか」
「……何が?」
「舞踏会嫌いのリューシュが舞踏会に出るなんて」
「出るなんて言ってねぇだろっ! クロチェって国のこと教えろっつってんだよ」
マーセル国王家の第一王子でリューシュの長兄ナッシュ。
舞踏会で客人をもてなすべく支度を整えていたナッシュを、
煌びやかな舞踏会も、そこでやたらに着飾った女たちも嫌いなリューシュが訪ねてきたのだからナッシュも驚きを隠せなかった。
「へぇ。クロチェ国の姫が目当てか」
「だから~~」
「兄さん、あんまりリューシュをからかうなよ。斬られるぞ」
兄と弟の微笑ましくも堂々巡りなやりとりに兄弟一のしっかり者、次兄セルシュがストップをかけた。
こうした一国の王子たちとは思えないやりとりも、穏やかで気取らず平和なマーセルの国柄の象徴だ。
「クロチェ国。歴史と伝統の国。以上、リューシュでもわかる説明だ」
「おまえこそ斬るぞ」
わかりやすいほどバカにされたリューシュがセルシュを睨みつけ、思わず剣を握った。