短小説

おもむろに僕の手をにぎる。

「私、どうしたらいいかな?」

ドキドキした胸、頭は考えてくれなくなった。

悠さんはどういうつもりなのだろう?

「どうしたらって…何をですか?」

もう自分ではお手上げだ。

悠さんは困ったような笑顔をした。

解かっている、悠さんが『どうか』するという意味。

「…兄さんのことですよね?」

小さくうなづく。

「兄さんなんて…」

「悠!!!」

兄さんが追ってきた。

もう悠さんは僕が見えていない。

「ごめん、俺は悠が…悠だけが好きだよ」

どうして兄さんはこんなにも素直に気持ちを伝えられるのだろう?

どうして悠さんは泪を流して嬉しそうなのだろう?

どうして僕は二人をこんなにも近くで恨めしく見ているのだろう?

二人は人目を気にすることなく抱き合った。

それを立ち尽くして見ていた。

靴を履かずに出てしまったせいで、僕は足が冷たくって仕方なかった。
< 55 / 76 >

この作品をシェア

pagetop