喫茶ノムラへいらっしゃい!
「で、そのウワサがどうしたの?」

お母さんがあまりにも笑い続けるから、私は話を元に戻した。

「あっ、その話は今日、西高の新聞部の子たちから聞いたんだけど。あの子たち見てると思ったわけ、チョコも好きな人とかいるのかなって?」

いきなり何を言い出すんだ、お母さんは。

「私のことなんて、どうでもいいじゃん。新聞にそのウワサについて書かれるなら、今年のバレンタインはいつもより忙しくなるね。」

動揺を見せないように、私は話題の中心を自分から外した。

…つもりだったけど、お母さんは全てお見通しみたいだ。

「お母さんがチョコのこと、わからないと思ってるの?ちゃーんとわかってるんだからね。」

「何が?」

冷や汗が流れる、悪いことしてるわけじゃないのに。

「好きなんでしょ、加藤君のこと。」

「なんで?」

もうムリだ、声が震えてる。

「だってねぇ。加藤君がお店に来ると、チョコ、加藤君のことばっかり見てるから。」

お母さんがにっこり笑う。

「告白しないの?」

「それは、私が決めること!」

そう、とお母さんが言うのを聞くと、私はソファーから立ち上がった。

リビングを出ようとする私の耳に、お母さんの声が届いた。

「お母さんはいつでも手伝ってあげるからね〜。」
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