喫茶ノムラへいらっしゃい!
閉店間際の10時になると、やっとお客さんはいなくなった。


と思っていたけど、あと1人残っていた。

あの後ろ姿は……加藤さん。

恵紀が加藤さんの肩を叩く。

「加藤さん、本に熱中するのもいいけど、お店閉めちゃいますよ。」

加藤さんが顔を上げ、髪をかき上げる。

「ケーキ、今から片付け?」

「そうですよ。今日はお客さん多かったから、片付けるのも大変なんです。」

「お姉ちゃん、借りてもいいかな。」

2人の会話に私が出できたことに驚き、テーブルを拭く手が一瞬止まる。

「俺じゃわかんないんで、母さんたちに聞いてみてください。」

わかった、と言うと、加藤さんはキッチンの方を向いた。

「マスター、奥さん。ちょっとチョコちゃん借りてもいいですか?」

加藤さんの声にお母さんがキッチンから顔を出す。

「どうぞ〜!」

お母さんが私の方を向いて、行ってらっしゃい、と言った。

「じゃあ、チョコちゃん、ちょっとついて来てくれる?」

ドアから出て行こうとする私の背中にお母さんが言った。

「チョコ〜、エプロン外して行きなさーい!」
< 44 / 58 >

この作品をシェア

pagetop