喫茶ノムラへいらっしゃい!
私が作ったケーキは野村家でも大好評だった。

悟さんだけじゃなく、マスターも奥さんも、おいしいと褒めてくれた。

喫茶店のマスターたちに自分が作ったお菓子を褒めてもらい、私は鼻高々だった。

「千恵ちゃん、学校卒業したらウチにおいでよ。私はお菓子は作れないから、千恵ちゃんがお菓子を作ってくれれば、お客さんもっと増えるよ。」

「それがいい。千恵ちゃん、ウチにおいで。」

いつもは寡黙なマスターも奥さんの話に飛びついてきた。

ただ、悟さんだけが神妙な顔をして、何か考え込んでるみたいだった。



その日は帰りが遅くなったから、悟さんが家まで送ってくれることになった。

家までの道を黙ったまま2人で歩く。

悟さんが何も言わなかったから、私も何も言えなかった。

私の家の前まで来たとき、悟さんは私の方を向いて言った。

「千恵ちゃん、結婚しないか?今すぐじゃなくていい。ただ、ずっと喫茶ノムラにいてほしいんだ。」
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