黄昏に君と
第一章 - 蛍の池
早く、帰らなくては。
頭にあるのはそのことだけ。
西に沈み始めている太陽と共に闇が徐々に空を侵食していく。
闇は"あいつら"を連れて来てしまう。
突然吹き始めた追い風もオレを急かしているような気がした。
だが、"家"まではまだまだ距離がある。
それどころか、急ぎ足で帰っているというのに、さっきからオレと"家"との距離はさほど縮まっていないように感じた。
まだ着慣れていない制服が、オレの動きを鈍くさせているせいかもしれない。
…それにしても、今日は動物園のパンダにでもなった気分だった。
転校生で、しかもこんな変な時期に編入してきたオレはクラスでは"異質"であり、珍しがられるのもわかる。
だけど、隣のクラスの連中まで休み時間を利用してオレを見物に来ているのには驚いた。
…まぁ、隣のクラスといっても、元々2クラスしかないのだが。
この町では、そんなに転校生が珍しいのだろうか。
オレが引っ越してきたこの町は、言っちゃ悪いがちょっと…いや、すごい田舎町だ。
1番近くのコンビニに行くにしても、1時間以上自転車をこぎ続けなければならなかったりする。
コンビ二はどこ?と尋ねたときのばぁちゃんの「すぐそこよ。」という言葉を鵜呑みにして、痛い目にあった。
往復2時間以上も自転車をこぎ続けたオレは、次の日、もちろん筋肉痛になってしまったのだ。
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