星空とミルクティー
「はい、おまちどうさま。」
「お♪今日もうまそうだなぁ。」
コトンと音をたててテーブルに置いたのは、ホットケーキ。
このお客さんは、緑茶とホットケーキという不思議な組み合わせを好む。
いつも、あたしがつくるホットケーキを、うまいうまいと言って食べてくれるんだ。
「やー、茜ちゃんはいいお嫁さんになれるね。」
ホットケーキを食べ終わり、満足げに笑うおじさんは、上機嫌。
「またまたー!お上手なんですから。」
「いや、ほんとほんと。
俺があと20年遅く生まれてたら、お嫁にもらいたかったよ。」
なにげない、やりとり。
けれど、蛍吾くんの顔が僅かにひきつったのがわかった。
「…だーめ。茜ちゃんは俺がお嫁さんにもらうんだから!」
…ねぇ、気付いてる?
いつもみたいに言ってるつもりなんだろうけど、うまく笑えてないよ。
「悪い悪い。蛍の茜ちゃんを奪う気はないよ。」
「だから早くOKもらえよ」と言い残して、席を立ったお客さんは代金を置いてドアへ向かう。
渉が出入り口まで見送りに行ったけれど、あたしたちはその場から動けずにいた。
――いつしか、蛍吾くんとあたしの関係は周知のものとなっていて。
常連さんなら大抵知ってる。
蛍吾くんがあたしに猛アプローチをしていて、それをあたしが断っているということ。
でも、今あたしたちがとても気まずいことは気づいていない。
5日前の出来事は、あたしたち2人だけの秘密だから。