星空とミルクティー
『茜ちゃん、俺…』
『ちょっ…蛍吾くん?』
見慣れた筈の大きな茶色い目が、あまりにも真剣で。
鼻にかかる吐息が熱くて、
掴まれた手首は びくともしなくて。
―初めて、こわいと思った。
空いた瓶を片付けるため、一緒に裏口に出たあたしたち。
あと数分間戻らなくても、誰も不審に思わないだろう。
…大声を出せば、誰か来てくれるかもしれないけど。
目に涙を浮かべたあたしが壁に押しつけられている姿を、もし誰かに見られたら?
――確実に、蛍吾くんは悪者だ。
キスされるのはイヤだった。
…でも、蛍吾くんのことが嫌いなわけじゃない。
酔ったお客さんに絡まれていたら、さりげなく助けてくれる。
あたしが疲れた顔をしていたら、甘いミルクティーを出してくれる。
………蛍吾くんは、
今まで出会った中で
1番優しくて、
1番強引で、
1番わからない、男の子。
キスされるのがイヤなのは、
ただ怖いから。
何度も何度も、繰り返される、
『好きだよ』『つきあって!』の言葉を
信じることができないから。