星空とミルクティー


『茜ちゃん、俺…』

『ちょっ…蛍吾くん?』


見慣れた筈の大きな茶色い目が、あまりにも真剣で。
鼻にかかる吐息が熱くて、
掴まれた手首は びくともしなくて。

―初めて、こわいと思った。


空いた瓶を片付けるため、一緒に裏口に出たあたしたち。
あと数分間戻らなくても、誰も不審に思わないだろう。

…大声を出せば、誰か来てくれるかもしれないけど。


目に涙を浮かべたあたしが壁に押しつけられている姿を、もし誰かに見られたら?

――確実に、蛍吾くんは悪者だ。


キスされるのはイヤだった。
…でも、蛍吾くんのことが嫌いなわけじゃない。

酔ったお客さんに絡まれていたら、さりげなく助けてくれる。
あたしが疲れた顔をしていたら、甘いミルクティーを出してくれる。

………蛍吾くんは、
今まで出会った中で
1番優しくて、
1番強引で、
1番わからない、男の子。


キスされるのがイヤなのは、
ただ怖いから。

何度も何度も、繰り返される、
『好きだよ』『つきあって!』の言葉を
信じることができないから。


< 9 / 33 >

この作品をシェア

pagetop