時間屋

「時間屋さん!」


突然大きい声を上げた俺に、時間屋は驚いた。


「うおっ、どした?」


「…おれ、時間屋になりたい!」


ただ外を眺めていただけの俺が、初めて一歩踏み出したいと思った。


この広い世界で、誰かの役に立ちたいと思った。


「…この仕事、なかなかキツいぞ?」


「頑張る!おれも、誰かを幸せにしたい…!」


時間屋はフッと笑って、名刺を取り出した。


「…ここに書いてある住所に、行ってみろ」


「…ありがとう!」


「頑張れよ、空雅!」



結局、時間屋の名前がわからないまま、俺たちは別れた。


でも、時間屋でまた会えるだろうと、信じてた。



次の日、早速時間屋に行った俺は、必死に頼み込んで、下っ端から始まった。


上司がついて、仕事を必死に叩き込んでもらった。



けど、あの時間屋に会えることはなかった。


俺の人生を変えてくれたあのひとは、最後に会ったあの日に、退職していた―――…



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