音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「ありがとう」の言葉
「大根入れて」
「ん……」
久し振りにママと買い物にきた。
この春休み中は医者へ行く以外は全く外へ出ていなかったから、久し振りに新鮮な外の空気を吸った気がする。
「体、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
本当は…… ママの押すカートに手を添えていなきゃちょっと不安。
めまいがしているけど、一人で歩けないわけでない。
けど――― この手を離すのが怖い。
「あたし、ゼリーの所行ってくる」
「一人で平気?」
「大丈夫、すぐそこじゃん」
ゼリー売り場は目と鼻の先。
ママの視界にも入れるから大丈夫でしょ?
「何がいいかなー?」
目の前にはカラフルなゼリーたちが並んでいて、どれがいいか迷ってしまう。
3個入りのにするか……バラ売りにするか……。
うーん、悩むな……。