音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
どれくらいその場に立っていんだろう……。
そんな…… 長い時間ではなく、数分だと思う―――。
「――― パンマン、―― パンマン」
パンマン…… って何?
さっきからあたしの耳に届いてくる高い女の子の声。
“パンマン”がどうしても気になり、声の聞こえる方へ視線を移した。
そして、そこにいたのは……。
「アンパンマンッ!!」
そう言って、少し高い位置に並べられえているゼリーに手を伸ばす――― 女の子がいた。
「アンパンマン、アンパンマン」
その女の子の回りを見渡すが……。
「お母さんいないし……」
こういう時って…… 取ってあげても大丈夫だよね?
取ってあげて、変な目で見られたらイヤだな……。
誘拐、とかじゃないし……
よしっ!!
あたしはその小さな女の子にそっと近付いた。