音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~




「さっきから先生言っていた?」


「結構前から言っていたと思うよ」


そっか…… そうだったんだ。

家の中だけじゃ気付かなかったけど、こうやって外に出て新しく分かることが沢山ある。


もう、優ちゃんに隠し通すのは無理かな……。

きっとバレるのも時間の問題かも知れない。


座ろうとしている優ちゃんにつられるように、あたしは腰を下ろしながら覚悟を決めた。


「あー、あたし耳が聞こえなくなったみたいだから気付かなかった」


あたしは、言ってしまった。

もう、戻ることは出来ない……。


でも、言ったそばからもう、後悔している。


「…………」


「優ちゃん?」


「はぁ? 何言っているの」


「だから、あたし耳が聞こえなくなったみたい」


周りはガヤガヤ騒がしいけど、あたしと優ちゃんの間はシーンっと音が無くなった。


優ちゃんとは、明日も明後日も友だちでいたいな。

朝は一緒に学校に行って、お弁当を広げていたい―――。


「ねぇ、まお。 いつ聞こえなくなったの」


優ちゃんのその言葉に、子どもみたいに嬉しくて…… 嬉しくて、胸が熱くなる。


ありがとう、優ちゃん。

そうやって、いつものように話しかけてくれて―――。




< 127 / 557 >

この作品をシェア

pagetop