音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「さっきから先生言っていた?」
「結構前から言っていたと思うよ」
そっか…… そうだったんだ。
家の中だけじゃ気付かなかったけど、こうやって外に出て新しく分かることが沢山ある。
もう、優ちゃんに隠し通すのは無理かな……。
きっとバレるのも時間の問題かも知れない。
座ろうとしている優ちゃんにつられるように、あたしは腰を下ろしながら覚悟を決めた。
「あー、あたし耳が聞こえなくなったみたいだから気付かなかった」
あたしは、言ってしまった。
もう、戻ることは出来ない……。
でも、言ったそばからもう、後悔している。
「…………」
「優ちゃん?」
「はぁ? 何言っているの」
「だから、あたし耳が聞こえなくなったみたい」
周りはガヤガヤ騒がしいけど、あたしと優ちゃんの間はシーンっと音が無くなった。
優ちゃんとは、明日も明後日も友だちでいたいな。
朝は一緒に学校に行って、お弁当を広げていたい―――。
「ねぇ、まお。 いつ聞こえなくなったの」
優ちゃんのその言葉に、子どもみたいに嬉しくて…… 嬉しくて、胸が熱くなる。
ありがとう、優ちゃん。
そうやって、いつものように話しかけてくれて―――。