音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「聞こえなくなったのは2月くらい。 ほら、2月に風邪を引いて休んだ時があったでしょ? それからだよ」
「…… あった?」
「あったよー。 その時におかしくなったみたい」
あの時、もっと早く休んでいればあたしの体はこんな風にはならなかったはずだったのに。
――― どうして休まなかったんだろう。
今、後悔したって遅いのはわかるけど…… どうしても考えてしまう。
「そうなんだ…… それならそれで早く教えてくれればよかったのに。 “友達”なんだからさ」
“友達―――”
あたしが“難聴―――” って分かっても友達でいてくれるの?
耳が聞こえないんだよ?
それでもいいの?
「なーに、不安そうな顔しているの?」
「だって、優ちゃんが優しいから……」
「当たり前でしょ? あたしはいつもまおに優しいじゃんか。 “友達―――”なんだから」
優ちゃんのその言葉に、あたしの涙腺は刺激された―――。
「ちょ、ちょっと! 何、泣きそうな顔しているの? あたしが意地悪した様に見えるから止めてよ、まお」
「だってぇー」
優ちゃんがあたしを“友達―――”だなんて思ってくれるんだもん。
嬉しいに決まっているよ。
「優ちゃん、ダイスキ……」
「わかったから、泣かないでよ。 あとでお菓子あげるから」
できれば、チョコレート菓子でお願いします。