音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
進級し、クラス替えがあったこの時期に学校を長期的に休むということは、友達作りにおいては致命的である。
みんなとスタートペースがずれることになる。
今はまだみんなと一緒。
徐々に慣れていけばいい話だけど……。
1週間以上も休んだらどうなる?
周囲の人と同じものを見て、聞くこと、感じることができない状況になる。
そうなると――― あたしは周囲と差が出る。
退院開けに学校へ行ったら周りはグループが出来ているだろう。
そのグループにあたしの入る場所なんか無いかもしれない。
「入院だけはしたくないです。 どうにか今のままで進めてください」
「でもねえ…… こんなに下がったら」
前回は左右の結果で開きはあったものの、検査の度にいい具合に上がっていた。
しかし、今回は上がるどころではなく、下がっているのだ。
分かっている。
今回の結果がどれ程悪いのかって。
それでも、それでも……
「入院だけは嫌なんです」
やっぱり優ちゃんだけじゃなくて、それ以外の友達だって欲しいからね。
まだ話したことの無い友達も沢山いる。
「一応このまま薬を飲んで治療するけど…… “入院”って事も頭に入れておいて。 親御さんにも話をしておいてね」
「…… はい」
入院なんて絶対しないんだから。
次の検査までに少しでも聴力を上げてやるんだから。