音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
いっくんはどこに位置づけしていいか分からない。
なので、こうやって言っておけば問題は無いだろう。
「高校の友達……」
誰とケンカしたか、わざわざ名前を言う必要もないし、深く追求されるのも嫌。
この傷口はそっとしておいて。
あたしの気持ちを汲み取ったのか、理央ちゃんはそれ以上深くは聞いてこなかった―――。
「早く仲直りしなきゃダメだよ。 相手だって仲直りしたいって思っているかもよ?」
いっくんが仲直りしたいって思っているのかな?
あたしが隠していたせいで怒っているんだから、仲直りをしようなんて考える訳がない。
「明日には“ごめんなさい”って言った方がいいよ」
「…… わかった」
あたしからごめんなさいを言うのは当たり前だけど…… 言いたくないな。
“ごめんなさい”って言ったらやっぱり“難聴”って言わなきゃいけないわけだし……。
あーもう、最悪。
あたしはヒザに顔を埋めた。
「まおか理央、お風呂に入りなさーい」
「まおちゃん、先どうぞ。 お風呂に入ってゆっくり考えて」
「ありがとう」
理央ちゃんにお風呂を譲ってもらったので、あたしは立ち上がりお風呂場へ向かう。