音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
姉妹
お菓子の臭いが漂う教室で、1日の授業を終えようとしていた時……。
「木下さん、1組の人が呼んでいるけど?」
クラスの男子があたしに声を掛けてきた。
“1組の人” …… 誰だろう?
「うん、わかった。 ありがとう」
その男子の言うことに少し、疑問を持ちながらお礼を言って、立ち上がった。
部活をやっていないあたしには、クラス以外の友達はほとんどいない。
手に持っていた教科書をカバンに入れ、ドアの方へ視線を移した。
「あっ……」
確か、1組だった…… 完璧忘れていた。
ドアに立っていた人物。 そう、それは……。
「いっくん―――」
親指を立て、廊下を指した。
妙に真剣な顔をしているいっくんを不思議に思いながらも、その合図を見てゆっくり廊下に出た。
「悪い、陽太に助っ人頼まれた」
「バスケ部、だっけ?」
「そっ。 明日の練習試合の助っ人頼まれたから今夜行くの遅くなりそうだ」
「わかった。 ママに言っておくね。 部活頑張って!」
「転ばないで帰れよ」
「転びませんッ!」