音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
この時間の電車は相変わらずギュウギュウだ……


おじさんたちが近いよ……



「そう言えば……
今朝、いっくん見た?」


「前田くん?今朝は見ていないよ。
でも、まおが入院している時は何度か見て、挨拶だってしてくれたよ」


「挨拶!!!」


挨拶って……あの挨拶だよね。


『おはよう』ってやつだよね。


あのいっくんが言うなんて……


「信じられない……」


「何で?
まおにだって挨拶していたじゃない。

何この子はおかしな事を言っているんだか」



だって、いっくんが『おはよう』を言うだなんて考えられない。


朝はムスーッとした顔がほとんだもん。


あたしが『おはよう』って言わない限り『おはよう』なんて言ってくれないし。



「“おはよう”っていっくんが先に言ったの?」


「そうだよ。
“おはよう”って言われたから“おはよう”って返したけど……」







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