音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「ここは定理1を使って……」
黒板の前で、チョークを握った先生が教科書を片手に熱弁する。
机の上にはノートに教科書。 勉強道具は一通りそろっているが、あたしの耳は先生の声を右から左へと抜けていく。
今日、珍しくバスを使ったのは朝から体がダルかったから。 このことは優ちゃんに心配かけたくないから内緒にしている。
「だからx=2になるわけ。 いいか、わかったか?」
わかるわけがない、 余弦定理? 正弦定理? なにそれ……。
「あと2ページだから頑張れなー」
…… はっ? あと2ページ、なの。
ボーっとしていた、授業があっとい間に進んでしまっていた。
ただ広げてある教科書に目を移して驚きだ。
テスト範囲もあと2ページで終わり。
やばっ、ボーっとしていて全ッ然聞いてなかった。
こりゃ、テストはヤバイな……。