音のない世界　～もう戻らないこの瞬間～

ヘッドホン

ストラップとかある。
でも、付けないからな……


「そろそろ、行くか？」


「もう、時間？」


「あと数分」



そっか、ウロウロしていたらもうそんな時間なんだ。
少し位早く着いたとしても、会場が開くまで待っていればいい話か。



「行く！」


「ん、じゃあ行くぞ」


……… 楽しみだな。
そういえば、いっくんとこうやって出掛けるのって初めてかも。


なんだか男の子と二人っきりだと緊張するけど、いっくんだと全然しない。


いっくんって気を使わなくていいからね。



「階段登る時は手すりにつかまれよ。
転んで落ちても知らねぇぞ」


後ろから少し意地悪声が聞こえた。


「階段で転ばないからっ！」


「わかんねぇぞ“まおだし”」


それって、どういう意味よ。
それじゃあまるであたしが所構わず転ぶ子みたいな言い方じゃん。


今、あたしが転んだとしたら。
あたしの数段下を登ってきているいっくんだって巻き添えで転ぶようになる。






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