音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
どうしても、これだけは好きになれない。
だからコーヒーも飲めないんだろうけどさ……



「早く食わなきゃカルボナーラが来るぞ」


「分かっているよっ!
ちゃんと食べるんだから見ていてよねっ」


あたしのバカー。
どう考えたって3つも4つもあるこいつを一人で食べられるわけないじゃん。


どう考えたって一つだよ。


一番小さそうな赤いのをフォークに差し、そっと口元に持っていく。


パクッと口に含んでアゴを上下に動かすだけなのに……
どうしても、出来ない。



「まおー、お前固まってるぞ。
さっさっと口に入れちゃえよ」


「今やるってっ!!」


そう、急かさないでよ。
出来る物も出来なくなる。


もう、女は度胸だ!


グッと息を止めて、フォークを口に含んだ。


ゆっくりフォークを口から抜いて、口内に残った物体……


うげぇー、苦いよ。
まっずい。


自分でも分かる位、表情が歪んでいる。


アゴを上下に動かし、カルピスソーダを口に含んで、一緒に飲み込んだ。






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