音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
口の中が苦味と甘さで混じりあって気持ち悪い。


「あははは……」


いいよね、いっくんは好き嫌いが無いからあたしの気持ちなんてこれぽっちも分からないから笑えて。

食べる側は必至なんだからね。



「ったく、マジおもしれーし。
普通“ピーマン”であんな時間かかるか?
それもまおが食ったのって一番小さいやつだろ」


しょうがないじゃん、ピーマン嫌いなんだもん。
ピーマンだけじゃない、パプリカも嫌い。


この世の食べ物じゃないよ。


うん、絶対そう。



「ほら、残りのやつ貸しな。
食ってやるから」


「ホント! いいの」


「あぁ、いいよ。
だって、まおが全部食べ終わる時は日が暮れていそうだし」


日が暮れるまでは食べないもん。


ピーマンが乗ったお皿をいっくんの方に差し出した。
残りのピーマンをグサッグサッと刺して、ペロッと一口で完食。


表情なんかまるっきり変わっていない。







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