音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「どっちの耳が聞こえないんだ?」


まさか、いっくんからそんな事を聞かれるとは思ってもいなかったから。

つい、顔をあげてしまった。



「まお?」


「あっと、えーっと……」


「落ち着けって、カルピスソーダ飲んで」


フォークとスプーンをお皿の上に置き、一口カルピスソーダを飲んだ。


シュワシュワっと弾ける炭酸がいっくんに聞こえてしまいそうな位、あたしたちの回りには音がない。



「まお?
怒ったり、怒鳴ったりは絶対にしないから教えて」


怒ったり怒鳴ったりしないって言う、いっくんの言葉を信じない訳じゃない。


でも、なんだかいいずらい。



「まお?」


「な、内緒だよ」



聞かれたくない…… そう言う訳では本当に無い。


なんだか改まって聞かれるとは、ちょっと言いずらい。


「俺の質問に答えていないんですけど。
右か左のどちらかのはずだし」








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