音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
熱い……。
熱い……。
――― 体が、熱い。
「熱冷まし、また飲む?」
「もう飲んでいいの?」
ふわふわする意識の中、ママに答える。
さっき飲んだばかりのような気がするけど……。 全く熱が下がった気がしない。
熱くてしょうがない。
「汗もスゴいね」
オデコにピッタリくっついた前髪をママが優しく払いのける。 冷たい手が、気持ちよい。
「さっきより熱も上がってる」
「…… 熱い」
「4時間経ったから、熱冷ましを飲んでいいよ」
「…… ん、分かった」
ご飯なんて、食べたくない。
ノドばかり渇いて、さっきから水をずっと飲み続けている。
「はい、飲んで」
ご飯だって食べたくないのに、薬なんて飲みたくないのが本音だ。
でも…… 薬を飲めば、ラクになれるんだよね?
なら…… 飲むしかない。
ママに体を起こすのを手伝ってもらい、薬を飲んだ。