音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「いっくんには、あたしの気持ちなんて…… 全然、分からなくて当然だよね」


だって、いっくんとあたしは違うんだもん。


――― 明日、音が聞こえなくなる。


こんな恐怖を知らずに毎日生きている。
朝、起きて『今日も、大丈夫』って安心する事も無い。


「こんな毎日でも、あたし…… 頑張って来たんだよ」


回りから色々言われるのだって分かっていた。


でも…… 直接聞くと、覚悟が揺らいじゃう。


みんなに迷惑かけたくない。


あたしが難聴な事で優ちゃんやリカちゃんが何か言われるかもしれないって考えると……


「嫌なんだもん」


あたしの事はいくら言われようとも耐えられる。
優ちゃんやリカちゃんまで言われるのは耐えられないよ。


もちろん、いっくんや陽太くんの事を言われるのもイヤだよ。


「だから……」







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