音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「じゃ、行ってくるね」
「はいはい、気を付けてね。 行ってらっしゃい」
あたしが家を出るのは一番最後。
10分も早く家を出るパパと理央ちゃんがスゴいと思う。
玄関のドアを開けると体中に突き刺す、冷たい風。
「さむーい」
寒いのが苦手なあたしには地獄のような毎日が続く2月。
それでも…… いくら寒くても駅まで行かなくてならない。
自転車を取り出してあたしは駅に向かってこぎ始める。
さっきよりも冷たい風が体中をチクチク突き刺す。
「何が“地球温暖化”“暖冬”だよ。 全ッ然寒い」
今年は“暖冬”のお掛けで去年より寒くないらしく…… 暖かいはずなんだか。
――― 寒い。
冷たい風に当たりながら自転車をこいでいると、理央ちゃんが通っている"中学校”が見えてきた。