音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
正面から転んだせいもあり……。
「ヒザ、包帯だらけだな」
スイスイ走るいっくんが、後ろに載るあたしに話しかけてくる。
「先生が処置してくれたんだよ?」
ヒザを擦りむいてしまったせいで、大きな絆創膏を貼ってもらった。 その絆創膏がはがれないようにと…… 包帯を巻かれたのだ。
いくら消毒・処置をしてもらったからといっても、ズキズキ痛むのは、放課後になっても変わらなかった。
歩くのだって一苦労。
ヒザを曲げるだけで ―――― ズキズキッ!!
激しく、強い痛みが走る。
もー、最悪。
「ゆっくりこいでよねー」
「わがまま言うなアホッ」
いっくんの腰にしっかり腕をまわし、注文をつける。
あたしのこの様子を察したのか、地元の駅で降りたらいっくんが待っていた。
部活をしていないから同じ電車でもおかしくないんだけど…… 声いっくんからを掛けられたのは初めてだった。
いつもはあたしが「バイバイ」って言うくらいなのに。
「小さい頃からよく転んでいたけど、いまだに転んでいるんだな」
すこし、昔を懐かしむようなことを言い出した。
「たまたまだよっ。 最近は転んでいなかったんだから」